中一、五月

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 ヨリちんは歳の離れたお兄さんがいて、聞いたこともない、面白いマンガをたくさん持っている。今ハマってるのは? 昔のイギリス貴族のメイドの話で、絵がすっごいの。細かくて、一コマ見るのに十五分かかる。十五分て。ヨリちんすぐ盛るからなあ。盛ってないよ! 貸すから。読んだらわかるから。うーんどうしようかなあ。  貴族とメイドっていう設定だけ聞いて、なんかエロそうと思って、結局貸りた。全然エロくなくて、普通のラブストーリーで、実はちょっとがっかりした。ハマってはいないけど、惰性で借り続けてもう七巻目だ。今まで読んでた単行本よりサイズも値段も高い。大人向けっていうのは、こういう、知らない世界のことと、あとは入るだけで叩かれるお姉ちゃんの部屋に侵入したときに見かける、マニキュアとか、グロスとか、マスカラとか、金色やピンクや丸っこい形の小さなガラス瓶のこと。  大判のマンガは持ち帰るのがめんどいので学校に置いてある。聖書の授業は先生がひたすら喋り続けているから最高の内職タイムなんだけど、先生も内職され慣れていて、サボらせないように教室じゅうを歩き回ってランダムに当てる。代数のヤマセンも目が悪いから内職向きって誰かから聞いて、実際に分厚い眼鏡をしていたから安心して、一回目の授業で落書きをしていたらクラスで一番最初に当てられた。教室の一番左奥の席でそんなに目立たないはずなのに、それからは三回に一回の割合で当てられている。ノダカナは内職のせいだと言うけど、マンガも読んでないし落書きもしてないときでも当たるから、多分違う。ヤマセンがわたしを嫌いなのかもしれない。最初の授業から不真面目だったから。それは仕方がない。当てられるのはイヤだけど、嫌われたのは自分のせいだ。  ヨリちんはどすこい! と言いながらシコを踏んで教室に入っていった。ノダカナが天才だよねといって笑った。ちょっと癖のある笑い方で、口の端が歪むので、角度によっては皮肉っぽく見える。
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