2018年1月某日

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 野瀬(のせ)礼音(れね)。甘乃川女子高校二年で天文部員の彼女は、部活の後、『カシオペア』で少し時間をつぶしてから帰るのが好きだった。家庭の事情で、礼音は、祖父母と生活している。祖父母はよくしてくれているが、歳のせいか、耳が遠く、祖母と雑談をしようとしても、声を張り上げなくてはならず、ちょっとした会話もおっくうになってしまっていた。 「今、合宿は甘女会館でやってるよね」  おかわりのコーヒーを一口すすってから、礼音と同じく天文部員の(はら)鈴香(すずか)が礼音に語りかけるようにして言った。 「そう、山に近すぎて、流星群観測はしづらいんだよね」  ぼやくように礼音も言う。 「でも、甘女会館だったら、ベッドやお風呂もあるし、ちゃんとした調理場もあるでしょ?」  彩矢が尋ねた。 「あー、まあ、そうだけど」  礼音が唇を尖らせながら答えた。 「板の間にボロ布団、しかも屋上だから隙間風もあるし、若いからできたんだなあ、今思うと」  ぼやくように、けれど、昔を懐かしむように彩矢が言った。  天文部の合宿は、彩矢が高校生だった頃は、校舎屋上、塔屋を流用した地学準備室を拠点にして屋上で実施していた。(天体望遠鏡などの備品類が地学準備室にある為だ)しかし、校内のセキュリティ強化の為、施錠後の校内を生徒がうろつく事は望ましくないという事で、他の運動部などと同様に、甘女会館で行われるようになった。  甘女会館は、そもそも合宿の為の施設なので、宿泊についてはむしろ状況が改善されたのだが、甘城山のふもとにある為、一部見晴らしが悪い。惑星や月食などであれば大きな問題は無いが、全天を見回すようにして行う流星群観測を行うには、少々場所が悪かった。休日等で都合がつくようであれば、甘城山山頂近くにある甘乃川市のセミナーハウスを使う事も可能だが、夏休みなどの長期休暇などでないと予定を併せるのは難しい。
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