言えない

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「服部さん、なんかこの部屋、イカくさい…」 「おまえねぇ。身もふたもないことをわざわざ言わないの。」  仕方ない。この匂いの出処は分かってるだろう?船山。しつこく言うなら刻んでまうぞ?  白い肌も魅力的だが、今夜はこのしなやかな柔肌が朱に染まった姿が見たいのだ。    いよいよだな。  襞のひとつひとつを押し広げるように、ゆっくり指を滑らせる。  この為に、あらかじめしなやかに慣らしておき、洗い清めてある。傷付けてしまわないよう、丁寧に、丁寧に。  一方的な奉仕と思うと単調なつまらない動きだが、やがては自らに帰って来る手順だと思うと、先の展開を想像して悦びが満ちてくるから不思議だ。  全体にくまなく朱を散りばめるのは、独占欲の現れか。手順を踏むほど増して行く愛着に、我ながら苦笑する。  ここまで来たら、焦らし、焦らされの駆け引きの始まり。気が急いでは目的を果たせない。  人の気配のない場所に匿ってしまいたい。  ここではダメだ。  ……空き部屋のカギ、調理教室の後も預かったままだよな。 「船山、場所を変えよう。ほら、立って!」  隣人を起こさぬよう、細心の注意を払ってエレベーターに乗り込んだ。
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