言えない

1/6
前へ
/6ページ
次へ

言えない

 ぺちゅ… くちゅり…  深夜の独身寮の一室。静寂の中、湿り気のある物音が響く。 「…ぁ…っ!!」  微かな悲鳴と共に物音は止んだ。 「船山ぁ…、お前は加減が下手だね…」  光沢のある黒地のすっきりとしたマオカラートップスの胸元に、飛び散った白濁。  粘り気のある液が、体型の割には男らしい手指から零れ落ちる。  つい夢中になって止まらなくなってしまったのだろう。 「ちっ…!顔だけなら拭けば済むのに、服にまで。」 「す、すいません…」  ブツクサと文句を言う俺に濡れタオルを手渡すと、船山は乾いたペーパーで服に付いた飛沫を拭おうと胸元に触れた。 「あーこら!塗り伸ばすんじゃ無いよ、ペーパーで擦ったりしたらカスが白浮きするだろ。コレで拭くからいいよ。」  今しがた顔の飛沫を拭き取ったタオルの面を変え、派手に散りばめられた白い跡を拭い取る。  内心、(…船山、ちょっと濃いんじゃないの?コレ)と軽く呆れたが口に出しては言わずに置いた。  普段着が汚れるのは想定内だが、美しく着こなしたいお気に入りの一着。腹が立たないわけでは無い。  だが、可愛い後輩は自らの粗相に動揺しているようだし、目くじらを立てるのは性に合わない。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加