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さよなら流れ星
「バス、まだかな」
僕の隣に立って慌ただしく足踏みをしているアカネが、そう言った。アカネは何度も大きなキャンバスを抱え直している。
電車で手稲駅まで向かい、僕たちはバス停に並んでバスが来るのを待っていた。石狩の海岸に向かうためだ。会社帰りのくたびれたサラリーマンたちに混じって、大きな望遠鏡を抱えている人たちもちらほらと目に入る。きっと、彼らの目的地も僕たちと同じなのだろう。僕がその黒い大きな塊をちらりと見ると、同じように、僕もその人たちからじっと見られていた。彼らから見れば、僕とアカネの関係は怪しく……いや、いかがわしくうつるのだろう。どこかうだつあがらない男と、まだ高校生くらいの色白の少女。艶やかな黒髪の二つ縛りが、動くたびにリズムに乗るようにピョンと跳ねる。その視線を振り切るため僕はアカネから少しだけ距離を取るように、一歩横に動いた。それでもアカネの体から沸き上がる強いエネルギーは、少し遠ざかるだけでは振り払うことはできなかった。
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