プロローグ

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プロローグ

寒気をはらんだ風が学校の屋上を通り過ぎていく。影が二本、細長く伸びる。麓の町並みにぽつぽつと光が生まれ始める。山間に隠れようとしている夕陽だけが屋上の様子を眺める。 「先輩……」  影の少し短いほう、小柄な女の子は気恥ずかしさが見え隠れする声を細々と上げる。その呼びかけで長い影、スポーツ刈りに揃えられた短い髪が立っている少年が女の子のほうに振り返る。 「私、その……」 「うん」  詰まりながらも言葉を紡ごうとする少女を少年は優しい瞳で静かに見つめる。少女の顔がほのかに赤くなっているのは夕陽の仕業か、はたまた別の理由か。 「先輩……私、その……先輩のこと……」  少女はその体のような小さな勇気を振り絞ってその先を告げようとするが、なかなか告げられずに顔を伏せてしまう。少女の中で、言いたい気持ちと言ってしまった先の予想がせめぎあいを続ける。 少年は手持ち無沙汰になり、一番星が自己主張を始める、夜と夕方がせめぎあっている空を見上げる。 「宮前先輩、私……先輩のことが好きです」  俯いていた頭を急にあげて、少女はついに決着をつける。自分の気持ちと現実に。 「そう」     
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