20人が本棚に入れています
本棚に追加
瞳からあふれ出る涙を拭わずに少女は詰まりながらも、涙声で最後の希望に身をゆだねる。少年はゆっくりと、相手に聞かせるためというより自分自身に沁み込ませるためにゆっくりと口を開く。
「僕には……ないんだ」
「ない?」
少年の言葉に少女は首をかしげる。少年は顔をそらしたくなる衝動に駆られるが、目の前の光景から目をそらさない。少女の表情に心が痛むのを感じながら、少女の眼を見つめて一呼吸の後、はっきりと告げる。
「僕にはないんだよ。恋人を作る資格が、付き合える資格が」
少年は寂しそうな微笑を浮かべる。すべてを諦めているような、悟ったような、哀愁漂う笑みである。
「だから、ごめん」
少年は最後にそれだけ告げると、少女の脇を通り抜けて屋上から姿を消す。影ができない闇に少女は一人取り残され、半分ほどしかない月に見守られる。
最初のコメントを投稿しよう!