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坂を登りきった先、みつが丘にある三つの丘の一つ、小高い丘の頂上に星(せい)鈴(りん)高校がそびえ立つ。広大な敷地面積を有し、文武両道を掲げているため部活動も盛んで、たまに全国大会出場の垂れ幕が正門を彩っている。
一年以上登り続けている坂を登りきった仁人は自転車を校門脇の駐輪場の空いているスペースに置き、赤レンガの校舎のほうへと歩いていく。
L字型をした校舎と文化部部室棟に囲まれた中庭で何人か友人に会い、朝の挨拶を交わしていく。
「よう」
「ん?おはよ」
右肩を叩かれた仁人が振り向くと、一年の頃からつるんでいる友人、黒松(くろまつ)が手袋で覆われた手を挙げて挨拶してくる。黒松は少し歩幅を広げて仁人の隣に並ぶ。
「今日は一段と寒いな」
「もう冬なのかな」
仁人は空を見上げる。どんよりとした雲が太陽を覆い隠そうと躍起になっている。
「そういや、今日は全校集会があるんじゃなかったか?」
「そうだった」
「絶対寒いだろうなぁ、体育館。我々は床暖房を要求する」
「床暖房の体育館なんて聞いたことがない」
仁人は呆れながらも楽しそうに黒松と会話して玄関で上履きに履き替え、教室までのひと時を過ごす。
教室の手前で黒松と別れた仁人は自身の教室の扉を開ける。クラスメイトたちと朝の挨拶を交わしながら窓側の席まで行く。
教室内は朝の短い時間をも無駄にできないと、女の子たちがいくつかのグループになって無駄話に花を咲かせる。
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