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N&SinMFC 説話 『灰色の不自由』
「飼おうと思うのだが」
主人の唐突な言葉に、ダルクは目をしばたいて振り返る。
暖かい日差しの降り注ぐ窓際、薄水色に染め上げたシルクのカーテンが僅かに開けられている窓から吹き込む風に揺れる。
ダルクの『主人』である男はこけた頬にペン軸を当てながら小首をかしげ、書き上げた書類を読み直し推敲に頭を悩ませながらもう一度呟く。
「飼おう、と思うのだ」
出来に満足したのか、薄くて透けるような安紙を摘み上げてインクが早く乾くようにため息を吹きかける。
「……それはまた、どのような理由で」
常に疲れている様な青白い顔の主人は、結うでもなく流しっぱなしの長い髪を掻き上げてダルクの言葉に少し哂う。
「理由か……。理由が無いと好きにも出来ない、何とも不自由な身分だ」
いたし方ありません、貴方はこの町の主なのですから。
そんな言葉を飲み込んで、補佐を勤め主人の良き片腕としてを担う青年ダルクは微笑を浮かべながらカーテン越しに、人影となって主人のデスクの隣に控えた。
主人が必要とするのはそんな分かりきった言葉ではない、ダルクは十二分に弁えていた。
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