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濃い紺色のスーツが高い背丈を覆う。長い髪をいくつかに分けて結い肩に流す。
いつもは髪の影に隠れる亡霊の様な顔も、露にすれば幾分血色も良く見える。
彼が背負う肩書きさえ無ければ、その場に集う淑女の全てが目の色を変えて群がるだろう。
しかしそこに注がれる視線は常に畏怖、そして忌避。
だがその日、人々の視線は少しだけ好奇のものとなり、彼を追いかけていた。
折り曲げられた左腕には、ぶら下がるように細い手が添えられている。純白のドレスに身を包む所為なのか、灰色の目と髪の色が際立っている。先ほどからきょろきょろと辺りをうかがい、恐れるように男の腕にぶら下がっている。
「落ち着きが無いぞ」
「……でも」
男、セカンディラード・サラ・ミストランに連れられた子供は、大きな真っ白い犬の真っ黒い目と視線を交わしてしまってすくみ上がる。
「これはこれは、流石は魔物使い殿。言葉を話す珍獣ですかな?」
隣の領主のバカ息子、という有能な片腕ダルクの忠告が頭を過ぎりセカンディラードは笑いそうになった頬を懸命に抑えながら振り返る。
「アーガッシュ殿、お久しぶりです」
少し頭を下げて、相手を持ち上げておく事。
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