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空を眺めてどれくらい時が経っただろう。世界の時が止まるような、そんな心地の良い感覚に、
何かが間を指した。
「…ァ……ンジ……ミ……タ…..」
異変はいきなりやってきた。同時に世界の時が動き始める。
(何か…いや、誰か?声か…..?)
声が聞こえた気がして振り向き、周りを見回したが、そこには誰もいなかった。そもそも声だったのか音だったのかさえも定かではなく、どこから聞こえたのかも正直理解していない。こういったことで怖がりたくはないが、時間も時間なだけに、警戒心が高まり心拍数が上がる。先ほどの自動販売機が、私は怖くないぞ、と言わんばかりに堂々たる立ち姿を披露していた。
落ち着くために冷めてしまった缶珈琲を飲み、一息ついた。冷えた液体が体内に流れ込んでいく感覚と、珈琲の持つ苦味のおかげで、警戒心を持ちつつも頭が冷静さを取り戻す。もう一度周りを見たが、やはり誰もいない。気のせいなのだろうか?気のせいだと思うのも難しいことだ。しかし、冷静に考えればお化けが声をかけてくるわけがなく、空耳の可能性だってある。よく考えたら何も怖がることはないのではないか。何もない場所に何がある。自分でも何もない街だと言っていたではないか。何もない街に何かがあるわけがない、何故なら何もないからだ。自分とこの世界にそう言い聞かせ、最低限の警戒心だけを残し、ひとまず落ち着くことにした。
スマートフォンの電源をつけ画面を見ると、時刻はもうすぐ午前三時を迎えようとしている。今日はもう帰ろうかと悩んだ。星空なら明日でも明後日でも見れるはずだ。今日はもう家に戻って寝るか、と思い空を見上げたその時
思考が一瞬停止した。自分を即座に疑った。あれは何だ?自分は何を見ている?あの光は星なのか?真ん中の丸いものは何?そもそも、いつからあるんだ?思考が停止してまともな考えが浮かばない。
「ガンジン、ミツケタ」
それは言った。がんじん?なんだ?鑑真か?停止した思考が頼りになるわけもなく、それが何を言っているか分からなかった。だが間違いなくそれは、私に対して話しかけているような、そんな雰囲気だった。
「ヤット、ミツケタゾ」
それは、目の形をした、星空だった。
この日、そしてこれは三年前の冬の夜。
ここが、物語の、始まり。
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