第1号

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頭上から何か声が聞こえる、男の声だ。 「おい、柊、寝るな~」 (…今日は眠い…。) 「柊くーん…」 (はーい…) 「柊!!!」 「…はい」 「まだ始まって10分だぞ、そんなにつまらないか俺の授業は」 先生に声をかけられ意識が戻ってきてしまった。仕方なく重い瞼を開け、体を起こす。 今、自分の目の前に立っているであろう教師。若さ故のこの元気ハツラツな感じと、スポーツ刈りが目印の如何にも体育会系なこの人こそが、数学を担当する山本先生だ。特徴だけを聞いた人は疑問に思うだろう。そう、この見た目でこの人は数学の教師なのだ。入学直後にある先生方の自己紹介の場で、この人の口から、数学を担当する山本だ、と言われた時は驚いたものだ。お前かい!と突っ込みをいれたくなった1年生は少なくないはずだ。 「柊、入学して1ヶ月、慣れてきて少しずつ余裕が出てくるのもわかる。だが、授業中に寝るのはどうかと思うぞ。起きて授業に参加しなさい。」 入学して1ヶ月。既に俺は授業中に居眠りをしてしまっている。睡魔に勝てず、机に突っ伏してしまうことがここ最近は続いていた。 「柊、放課後先生のところに来るか?」 なぜ疑問形なのだろうと思うがそれはおいておく。 「行きません」 「なら、起きてろ。少ししたらみんなにプリントを解いてもらおうと思ってたところだ。寝るならプリントを解き終わらせてからにしら」 そう言って山本先生は前へと戻っていった。授業が再開される。教科書のページをめくり、数字や文章をぼんやりと眺めるが、いまいち頭に入ってこない。先生の声が空気となって、右耳から左の耳へと流れていく。 (眠い…) 意識が遠のき体が傾きかける。間一髪のところで体を起こし姿勢を正す。このまま寝てしまってはまずいと思い頬をつねるが、全く効果なし。意識の糸が細くなっていくのを感じる、もうダメだと思ったその時、 「ではさっきも柊に言ったことでわかってると思うが、これからみんなにこのプリントを解いてもらう。解けた人から先生のところに持ってこい」 (やっとプリント…危なかった…) 前の席から順にプリントが回される。だが俺のところにプリントが回ってこない。周りがざわつき、その後で先生の声が響き渡った。 「柊、アウトーーーー」 この日の放課後、職員室に呼び出された俺は、問題児第1号の称号を手にさせられることになる。
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