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濁った吐息
バス停までは徒歩10分ほどだが今日は少し遠く感じた。
当然距離そのものは変わらないが、心に落ち着きが有るせいだと思う。
東の空はまだ暗闇に覆われていて、西の空には北斗七星が煌めいている。
「この時間なら冬でも観測することができるんだ」
蟲の声も、蒸し暑さも無い冷えきった世界は、とても澄んでいて美しい。
同じ時間だとしても他の季節にはこれは真似できないだろうな。
おそらくほとんどの生き物はまだ寝ているというのに、街灯は仕事をしている。
人気の無いこの静けさはなんとも心地良い。
「今日は誰も居ないのか。」
年季の入った停留場は無口で、雨の日も、強風が吹き付けても、雪がいくら積もろうと、竜巻に吹きとばされようとも彼は屈しずに人間たちを見守っている。
「寒いね、」
「・・・・・」
時刻表が風に飛ばされそうになった形跡がのこっている。
こういうものを見ると放っておけない性分なのでつい直そうとしてしまう。
「・・・手袋を取ってしまうとは自己犠牲な…」
「褒めてるの?」
「変なやつだな…御主の顔は覚えている。もうじき2年か、」
「早いね2年って」
「30年以上ここに立っていると2年なんて大したことないからの」
「そっか…」
老朽化しているバス停はちっとも寂しくなさそうだった。
バスは少し遅れてやって来た。
「元気でね」と告げ、乗車
AM 05:46
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