2人が本棚に入れています
本棚に追加
1話 おかしな子猫
暖かな春の日。桜の舞う遊水池の外周を、今日から私立伊瀬上高校に通うことになった私、椎菜 涼美は高校生活に希望を馳せながら歩いていた。
「あらぁ、涼美ちゃん、今日から学校?」
そう声をかけたのは、初老のお隣さんの杉田さんだった。
「はい!昨日入学式があって今日から授業です。」
杉田さんはこの時間にいつも犬の散歩をしている。リードをつけてないところを見るとかなり躾がなっているらしい。
「おはよう、クー。」
杉田さんの飼っている柴犬のクーは誰にでも人懐っこいという訳ではないが、毎日顔を合わせている私には慣れているようで、頭を撫でると嬉しそうにしっぽを振ってくれる。
「わふっわふっ…!」
「あら、どうしたのクーちゃん?」
クーは先程から遠くを見て吠えている。どうやら上永谷駅の方を見ているようだ。
「上永谷駅?あら、もうすぐ8時よ涼美ちゃん!」
杉田さんにそう言われスマホで時間を確認する。やばい、電車に間に合わなくなる。私は慌てて上永谷駅に向かって走った。
「はぁ…はぁ、間に合ったぁ。」
全力疾走の甲斐があり、なんとか予定していた時間に乗れた。上永谷駅は地下鉄しか通っていない駅だがホームは地上にあるため、階段を上る羽目になる。
「クーが教えてくれなかったら遅刻してたかも…。」
そんなことを考えていると電車は上大岡駅に着いた。ここは交通の便が良く、人もたくさん乗ってくる。女性専用車両でもぎゅうぎゅう詰めになる。
私は電車の端っこに流され、はぁ…とため息をついた。
その時だった、
「みゃー」
何かの音、いや、声がした。
「子猫の鳴き声?」
最初のコメントを投稿しよう!