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凍夜くんの小学生時代を一通り話し、詩織さんは時計を見つめる。
「あら、もうこんな時間。凍夜の中学生編は、また今度ね」
「もっと聞きたいです。時間なら、まだ大丈夫ですよ」
茜ちゃんがそう言って、私も大きく頷く。
「私は、茜ちゃんと真司くんの話を聞きたいのよ」
「ええっ!? わっ、私ですか!?」
茜ちゃんの話?
それは、私も気になっていた。何度聞いても恥ずかしがって、真司くんのプロポーズとか教えてくれないんだ。
「披露宴で、真司くんが言ってたよね? 俺ならバシッと告白を決めますって」
「茜ちゃんも、そうねって言ってたよ」
「ううっ……美空まで……」
誤魔化せない状況に追い込まれ、顔を真っ赤にして語り出す。
「……社会人になってから、真司くんとツアーで海外旅行に行ったんです。その時に告白されました」
「あら、素敵じゃない。何が恥ずかしいの?」
「迷子になったんです……」
「迷子? 真司くんがどこかへ行っちゃったの?」
「……私がです」
私も詩織さんも驚いた。慎重な性格の茜ちゃんが、迷子になっている状況なんて想像できない。学生の頃なら分からなくもないけど、社会人になってからは真司くんの面倒を見てるイメージしかないよ。
「何で? 茜ちゃん、どういう状況だったの?」
続きが気になって、私が追求してしまった。
「移動中のツアーバスがホテルに向かう途中で、お土産を売ってる休憩所へ寄ったの。真司くんは寝ちゃってたから、私だけがバスから降りてお土産を見てたんだ。夢中になりすぎて、気が付いたらバスが出てた。携帯や財布の入ったバッグはバスに置きっぱなしで……」
「ええっ!? それで、どうなったの!?」
「周りの人は何を話してるのか分からないし、見知らぬ土地で独りっきり……不安で心細くて泣いちゃった。そうしたらね、どこからか真司くんの声が聞こえたの。驚いて振り向いたら、真司くんが汗だくで走ってきて……私をギュって抱きしめてくれた」
これは……予想を遥かに超えた話だった。もし付き合って無くても、そんなことをされたら一発で恋に落ちてしまいそう。
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