【第一話】 私の知らない旦那様

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広々とした玄関ホールに向かい、上履きから靴に履き替え、校舎の外に出て隣の敷地を確認する。目に映るのは桜並木と高校の校舎。 ……ここは、私の通っていた中高一貫の学校だ。 ポケットに入っていた懐かしいスマホでカレンダーを確認する。 [2018年4月12日] 私が結婚式を挙げていたのは、2028年の4月12日…… 中学と高校の校舎を繋ぐ桜並木が懐かしい記憶を少しずつ蘇らせる。 満開の桜の下へ自然と足が進む。雄大な桜の木にそっと手を添え、瞳を閉じた。 夢なの? ううん、夢じゃない。風や花の匂い、触れる幹の感触がリアルに伝わってくる。 人生をやり直したかったのかな?  まさか、私は幸せだった。やり直したいなんて思わない。 だけど、心に引っ掛かってることはある。 私とあなたが知り合ったのは社会人になってから。同じ学校を卒業したと知って、二人の仲は急接近した。 結婚すると決まって、あなたは私を友達に紹介したよね。学生の頃の友人と、昔話に花を咲かせる楽しそうな顔を見て思ったんだ。 あなたとの、青春時代の思い出が欲しいなって…… そして、もう一つ。 この桜の下で、私は恋をした。 淡い初恋の人は、名前も知らず顔もハッキリと思い出せない彼。 見つめるだけで十分だった。 いつしか、彼があなたなら良かったのにと、心の奥に秘めていた想い。 本当に、十年前に戻ってしまったのなら……桜の花びらを春風に舞わせ、優しく微笑む彼に声を掛けたかった。あなたかも知れないという、小さな可能性を信じて。 高鳴る鼓動を抑えるように、両手を胸に当てる。 「そのリボンの色は中等部だな。いくら受験がないからって、中学生が授業をサボっていいのか?」 「……えっ?」
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