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麻酔の針を挿入される痛みにひたすら耐え忍んだあと、やっと長い針が全て入ったと言われ、再び仰向けで寝るように数人に支えられ体制を戻した。 その間、担当の市川先生も既に待機していて、看護師と打ち合わせも丸聞こえ状態で声が聞こえてくる。 機材の入ったトレーを覗いて、 『何号揃えといてね』 『これ久々に見ました。市川先生、こっち使うんですね』 『俺はこっち派だから』 これとかこっちとか、なんとことかさっぱりわからないけれど、縫う針や糸のことなのかなと、勝手に想像しながら、機材の近くで楽しく談笑している先生たちが見える。 その間も、首と体を上から隔てるように布で遮られ、足も手も定位置に固定されているようで、お腹以外が布で覆われていき、数人に囲まれているうちに、気づかない間に下半身はカテーテルを挿入し終わっていたらしい。 先生のお気に入りの曲なのか、スタッフが先生に頼まれて、ポップな音楽まで聞こえてきた。 緊張感ゼロの雰囲気の中、市川先生と目が合うと、 『緊張してる?』 と、聞いてきた。 昨夜から、飲まず食わずの断食に加えて、緊張のせいで声がカラカラだから、首だけコクリと頷き返す。 『ははっ(笑)息、吸ってる?一回深呼吸しようか、フッーって息吐いて。』 いつも通りの市川先生が、笑って深呼吸を促したのに、息も吸い忘れるほど緊張していることに気がついた。
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