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【4】
10分後、わたしは椿田さんの車に拾ってもらった。
「急に悪かったな」
「いえ」
黒の軽自動車は、保険屋さんとしては合ってるけど、あまりこの人らしくない気がした。
どちらかといえば、いかにも走りそうなマニュアル車みたいなのに乗っていそうだ。大学生の時にオートマ免許は取ったので、一応なんとなく車のイメージはある。
車内がものすごく煙草臭いのは、間違いなくこの人の車だと思うけど。
「怒ってるか」
「いえ」
「……腹減ってるか?」
「今は大丈夫です」
それからしばらくして、高速に乗ると彼が言った。
「……二週間放っぽらかされて、やっと連絡が来たと思ったらデートじゃなくて、客先に行くついでのドライブで……ってことで本当は怒ってンじゃねえのか」
「別に怒ってないです。……というか、緊張してるだけです」
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