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緊張。と言えば緊張なんだろう。
ここに居ると、煙草に混じったこの人の匂いの中に居る気がして、触れられてるわけでもないのに、変な気持ちになってくる。
「……前の仕事は女性の上司だったし、父親以外の人と二人で車とか初めてなので、落ち着かないだけです。怒ってません」
もしも、江崎さんが昼間言ってたような都合のいい女とか、その場の思いつきで誘われただけだとしても、それでも多分、怒るより嬉しい方が大きい。
もしも、他にそういう女の人が居たとしても、きっとここに居る間は怒る気になれない。
「……お前の父親っていくつだ」
「え?ええっと……今年で五十?」
「十離れてねえ、か……」
「あ」
沈黙がまた、狭い車の中を支配する。
「……あの、椿田さん。煙草、あたしに気を遣ってるなら、いいですよ。吸っても」
「……ああ」
煙草の匂いはするけど、乗った時からずっと、吸ってはいなかった。
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