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何か言わなきゃ、と内心冷や汗をかいていると、父が先に口を開いた。
「昨日遅くなって、近くのビジネスホテルに泊まって、今帰りだ」
「……そうなんだ……」
そういう時も、無くはない。もう歳で終電で帰る体力が無いから、と前に母に話しているのを聞いたことがある。
物騒な事件もあるから、疲れたり酔っ払った状態で無理に帰るよりは、と母も表向きは容認している。無駄なお金を遣って、とわたしには言うけれど。
「涼子は」
「あ。昨日、……会社の飲み会があって、遅くなったから先輩の家に泊めてもらって」
「ああ。いつもお世話になってるらしいな。お母さんが気にしていた」
「……うん」
「でも、まあ……な。学生の時や、若い時に友達や先輩の家に泊まって馬鹿騒ぎしたり、俺もあったから、いいんじゃないか」
「え?」
少し驚いて、わたしは父を見上げた。今まで、否定はされても肯定された覚えはあまり無い。
「お母さんは、そんなことはしなかっただろうから、どうしても嫌な顔もするかもしれないが、気にしなくていい。……弘樹も滅多に戻らないから、どうしてもお母さんは涼子に頼るとこもあるだろうが、無理して合わせることはない。ここだけの話な」
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