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一瞬きょとんとして、それから微笑んで彼は言った。
「何をだ」
「もう一回キスしてください。ご飯の前に椿田さんが欲しいです。……ちゃんと着替えて、かっこいいおじさんになった椿田さんが」
彼は笑って言った。
「じゃー、着てなくて髪ボサボサなら、ただの汚ぇオッサンだな」
「そんなこと言ってな……」
言いかける間に、欲しいものをくれる。
ベッドの中でしたのより優しいけれど、ちゃんと触れ合って確かめるみたいなのを。
「……これで、気済んだか」
「はい」
わたしの頭を撫でて彼は言った。
「昨日話したけど、忘れてるだろうからもう一回言っとく。今日は夜まで時間あるから、飯食いながらでいい、お前が行きたいところ教えてくれ。だいたい想像はつくけど、まだ俺お前のこと全然知らねえからな」
「……椿田さんのことも、教えてくださいね」
「オッサンは、お前が良けりゃ何でもいいんだ」
思い出して、なぜか、ちくっと胸が痛んだ気がした。
その後も海沿いの景色のいい場所をまわってくれたり、楽しかったことだけのはずなのだけど。何か大事なことを忘れてる気がする。
飲んで記憶無い間のことなのかな……。
今度聞いてみよう、と思いながら、わたしは江崎さんのロッカーを閉めて鍵をかけた。
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