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「あたしと居て、物足りなかったりしませんか?」
「あ?」
煙草を咥えたまま、彼は振り返って眉を寄せた。
銀の細縁の眼鏡に前髪は思い切りよく掻き上げて額を出した彼のこういう表情は、ちょっと、怖い。
「ええと……なんていうか、赤子の手をひねるよう、というか、チョロ過ぎて面白くないというか」
「なんだそりゃ。よく分かんねえけど、――――今日、どこも混んでるだろうからウチ来いって言ったな?さっき」
「あ。はい」
そう。シティホテルもラブホも、人が多いだろうから、そんなゴミゴミしたところ嫌だから家に来い、と言ってくれたのだけど。
「ひとつ言っとくと、俺、今の家に女入れたこと無ぇからな。今まで」
「……へ?」
「嘘じゃねーぞ」
一瞬、足が止まって、置いて行かれそうになってわたしは慌てて走って追いつく。
「あの、でも……じゃあ何であたしは」
「オメーは面倒覚悟しねえと付き合えねえからだ」
「……はい?」
余計、意味が分からない。
首を傾げていると、彼は言った。
「……おい。ここ覚えてるか」
「え?」
知らない道だったから気付かなかったけど、狭い路地から出たら、あの川べりの歩道に出た。
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