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【16】
「涼子。起きろ」
頬っぺたをぺちっと叩かれて、目を覚ましたわたしは、一瞬びっくりした。
ジーンズと黒のTシャツ姿、誰かと思った。
じっと見ていると彼は言う。
「なんだ」
「……その方が若く見えます」
「普段がジジイって言われてる気がすンだが。もう9時過ぎだ。そろそろ起きろ」
時間制限が無かったら、まだ余裕で眠れそうな気がする。
「……ふぁい……ていうか、着替え、持ってたんですね」
「一応な。お前がどこ行きたいか分からなかったからよ」
準備のいいおじさんだなぁ……。
「もしかして、会うの楽しみでした?」
煙草に火を点けたところだった彼は、ひとつ煙を吐いてから
「さっさと風呂行ってこい」
と、どこか照れ臭そうに早口に言った。
お風呂でも、まだわたしはあくびをしていた。
そういえば、職場が変わってこれでやっと一か月くらいだし、緊張してたのかもしれないなぁ、と思う。
彼の言ってくれたように、ちょっと今日明日は甘えさせてもらって、気楽に過ごさせてもらおう……。
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