2546人が本棚に入れています
本棚に追加
/299ページ
それから駅に着いて改札を出た頃に、わたしはふと気がついて言った。
「さっきの、……もしかして彼氏とかと来たのかと思ったんですか?」
彼は答えず、ポケットに両手を突っ込んで不機嫌そうに眉を寄せている。外に出てしばらく歩いてから、ぼそっと言う声がした。
「居たのか。そういう奴は」
「居ませんよ。ていうか、居たと思いますか。今のあたしを見ていて」
「……分かんねぇから、聞いてンだ。言っとくけど、俺はお前の過去は全然知らねえんだからな。そこはお互い様だろうが」
わたしだって、この人の昔のことは気にはなるけど、聞いたら気にしてしまいそうで怖い。自分の過去も話したくない。この人も聞かれたくないだろうと思うんだけど。
「それで居たのかどうなんだ」
「居ませんよ。ていうか、好きになったの自体初めてだって前に言ったじゃないですか」
そう言うと、彼は一瞬怪訝そうにわたしを見た。
「……なんですか?」
「いや、……それ、この前ホテルの部屋で飲んで飯食った時に……酔っ払う前に言ってたけど、それは覚えてんのか?」
最初のコメントを投稿しよう!