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【24】
「……まあ、そうです」
あからさまに眉間に皺を寄せて答えたけれど、鹿野さんは意に介する様子もなく話を続ける。
「どこで待ち合わせてるの?さっき窓から見たらだいぶ雨強くなってるけど、傘は?」
「バッグの中に折り畳みがあります」
そこで、初めて自覚した。
前の職場で、同性の嫌がらせや陰口、と上司のパワハラは慣れたけれど、こういう妙になれなれしい異性は経験が無いからか、ものすごく鬱陶しく感じる。顧客では居たけれど、あれは逆らえない対象だから別だ。
エントランスに着いて、傘を取り出して広げようとした、けど。
「……へ?」
いくら押しても開かない。中で変に金具が引っ掛かっている感じだ。
「あれ。壊れちゃった?」
隣で男性用の大きな黒い傘を広げて鹿野さんが言う。
「……いいです。すぐそこですから走ります。お疲れさまでした」
確かに降りは強いけど、少しの距離だ。
壊れた傘を手に駆け出そうとしたら、いきなり肘のあたりを掴まれて、大きな傘が差し掛けられた。
「近くっていっても、これじゃ無理だよ。ついでだから、そこまで行ってあげるよ」
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