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【28】
「それじゃ、送ってもらってありがとうございました」
お昼を食べて、家の近くのコンビニまで送ってもらう頃には、予報通り雨は上がっていた。駐車場に車を停めると、彼は煙草を取り出して一本咥える。
「おう。んじゃ、何かあったら連絡しろよ」
一瞬、どのことだろう、と思っていると
「会社の男のことも、家のことも。何でもいい」
と、彼は煙草に火を点ける。
「帰りも、何か面倒になりそうだったら、近く居れば迎えに行ってやるし」
「心配ですか?」
「たりめーだ。他人の女、腕掴んであんなエラソーに」
唇の端に煙草を噛んだ彼はかなりご立腹だ。
「……すいません。なんか。どうもあの人はペース崩されて」
「別にお前が悪いんじゃねえし、お前に怒ってンじゃねえよ」
ふっと煙を吐くのを見てると、なんとなくここから出る気がしなくなる。
バッグを抱えたまま助手席に座っていると、彼が言う。
「俺はしばらく煙草吸ってから行くから、行っていいぞ」
「あ。はい。……」
さびしいんだ、と思う。このおじさんから離れるのが。
初めの頃は、何も考えていなかったけど、今は、別れ際って嫌なものだなと思うようになった。
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