【29】

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【29】

 妙に物分かりの良い父に違和感を覚えながら家に帰ると、リビングで母がテレビを見ていた。振り返ってわたしと父を見た母は、意外そうな表情を浮かべる。 「あら、一緒だったの」 「途中で会ったんだ」  父が答える。 「そう。……二人ともお昼は」 「あ。あたしは食べてきたから」 「俺も、大丈夫だ」  ソファから立ち上がりかけた母は、むすっと唇を結んでまた座り込む。 「そう。最近は、弘樹も居ないし何作っても余ってしょうがないわ。あなたも、涼子も好き勝手に出歩いて」 「あの……ごめんなさい。無かったら無いで自分で適当にするから、お母さんが無理しなくても」  言いかけた私を手で制して父が言う。 「涼子だってもう社会人なんだから、遊びでなくても付き合いぐらいあるだろう。そういう言い方は」 「私はお酒も飲まないし仕事が終わればいつも真っ直ぐ帰って家事をして来たのに、誰に似たのかしらね。……涼子。洗濯物あるならお父さんのとまとめて洗うから籠に入れといて」  部屋に退散しようと一歩下がったのを母は見逃さず言った。 「あ、あの……悪いからいいよ。自分で」 「そういえば、あなたが『先輩』の家から帰ってくると煙草の匂いがするんだけど、先輩って煙草吸う人なの?」
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