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【9】
月曜日。始業前。
「……というわけで、名前お借りしてすみませんでした」
ロッカーの前で、わたしは江崎さんに頭を下げた。手には葉山の有名な洋菓子店で買った焼き菓子のお土産を捧げて。
「別にいいけどさぁ。名前貸すくらい……」
お菓子を受け取って、江崎さんは言う。
「次からは、使用料要らないからね。別に倉見さんの親からあたしに確認の電話来るわけでもないでしょ」
「いえいえ。勝手に申し訳なく……」
「全然。ていうか、良かったじゃん。向こうから連絡くれて。会えて」
「……はい。まあ……」
「うわぁ……やだわぁ。この子」
普通に言ったつもりだったけど、江崎さんは口元に手を当てておかしな目で見る。
「な、なんですか」
「顔赤いし、なんか溶けそうに幸せそうな顔してるけど、……何されてきたのよ。あんな不安そうだったくせに」
「へっ?」
その時、江崎さん電話、と声がかかって
「悪いけどこれあたしのロッカー入れておいて!お土産ありがとだけど、今度ちゃんと話しなさいよ」
と、彼女は総務へ走っていった。
言われた通り、江崎さんのロッカーに仕舞って、扉を閉めようとして鏡に映った自分が目に入る。
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