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【12】
「そう……なんですかね」
眉をしかめて彼はコーヒーを飲む。
湯気で曇った眼鏡を鬱陶しそうに外しながら彼は言った。
「ま。後は、……聞くところじゃ、母親と娘ってのは難しいらしいから、子離れしてねえと、娘が友達出来たり、男が出来たりで自分から離れようとすると面白くない、ってこともあるらしいし」
子離れ。
というより、昔から母は自分の仕事が大事でマイペースで、わたしのことなどそんなに構ってもらった記憶は無い。むしろ、可愛いのは弟の方なんじゃないかと思うけど。
「……お前は、今はいい先輩も居る居心地いい職場みてぇだけど、前は嫌な客にも頭下げて毎日仕事してたンだろ。そうやってちゃんと自分の人生切り拓いて来てンだ。胸張れ」
紙ナプキンで拭いた眼鏡を彼はかけ直して、わたしを見る。
「どうした」
可笑しくて、わたしは笑った。
まだ会って二か月ちょっとの、全然それまで何の関係も無かったおじさんが、わたしのことは何でも分かってる様子で励ましてくれる。不思議で、笑ってしまう。
「……ありがとうございます」
「……後でカウンセリング料な」
「体で、って言うんでしょう。もう言いそうなことだいたい分かります」
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