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【20】
「さて、と……」
諒くんとそのお母さんが手を繋いで去って行くのを見届けると、椿田さんは言った。
「お前、腹減ってるか?」
「え?……いえ、朝が遅かったから、あたしはまだ……でも椿田さんがお腹減ってるなら」
「いや。俺もまだいい。……ってことで、あれ行かねえか」
と、彼が自分の後ろを親指で指した先にあるのは。
「……怖いんじゃないんですか?」
「怖いとは言ってない。好きじゃねえって言っただけだ」
絶対嘘だ。
と思うけど、乗ったら煙草も吸えないのにわざわざ言い出すのは、なにか理由があるんだろう。
「いいですけど。途中で降りられませんからね」
観覧車なんて、いつ以来だろう。
子供のときは家族で。そういえば、弟もこういうのは苦手だ。
高校の時は友達と。大学の時も……みんな女の子とだけど。
「椿田さんは、前に乗ったのはいつですか?」
「あ?」
ガチャン、と重い金属音を立ててドアが閉まってから、この人はしっかり胸の前で腕を組んで、眉間に皺を寄せている。
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