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【21.5】
「誕生日プレゼント。何か欲しいものないですか?」
地上に降りてから、わたしは聞いた。
「本当は黙っててサプライズの方がいいんでしょうけど、そういうの初めてで、どういうものがいいかよく分からないので」
「別に、要らねえよ。祝ってもらう年でもねえし」
「そういうことじゃありません。そこに椿田さんが居てくれてありがとうございます、って意味です」
先を歩いていた彼は足を止めて、振り返った。
「……何か、あたし変なこと言いましたか?」
「いや。……」
まじまじとわたしの顔を見て、それから彼は言った。
「プレゼントは、物じゃなくてもいいのか」
「……それ、なんとなく分かった気がします」
「言ってみろ」
「言えないようなことですよね?」
「じゃ、俺が言ってやるから耳貸せ」
どうせ何かやらしいこと……と思ったけど。
普通に他の人も行き交う路上で、一瞬わたしを抱き寄せて、彼は耳元に囁いた。
用が済むと離して、また何事も無かったみたいに歩き出す。
「……なに突っ立ってンだ。行くぞ。さすがに腹減ってきた」
「……こっちは、ここに椿田さんの声が残っててそれどころじゃないんですが」
『俺の好きなだけ、好きな場所に痕つけさせろ。意味、分かるな?』
言われただけで、体が騒いで。どうしたらいい、ってぐらい。
「……ほんと、ずるいです」
「オメーが煽ってンだ」
まだあんなにお日様も高いのに、と。わたしは溜息をついた。
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