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その子がこの世に産み落とされたのは蒼い満月が煌々と輝く夜だった。
赤子は不思議なことに泣き声一つたてなかった。初めて外の世界を目にしたにも関わらず、何もかも見透かしたかのように。
やがて漆黒の髪に灰色の目を持つその赤子は母親によってハンスと名付けられ、惜しみない愛情を受けた彼はいつしか月光のような冷たさを秘めた少年へと育った。
同時にハンスは類い稀な才能を持つ子供でもあった。例えば一度聴いただけの曲をピアノで弾けるまでに覚えてしまったり、何故か習ったことのない言語を話したり。
それだけでなく彼には年齢とは裏腹に妙に達観したところがあり、そんな息子を見ているうちに母親は『ハンスは神様が創り出した特別な存在なのだ』と心の底から思った。
だが彼が七つを迎えて幾日か経った頃、両親や周りの人間は一斉にある疑惑の念を抱くようになる。
――ハンスはひょっとしたら悪魔の子なのではないか。
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