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「私は車で来ているので大丈夫」
さあ、使ってと傘を一本私に突き出してきた。
本当に使ってしまっていいのだろうか。
車に行くまでも濡れてしまう。
「…車に行くまで濡れてしまいますよ?」
「そんなのどうってことない。このまま女性を一人雨に濡らせて帰し、風邪をひかせた男にはなりたくないから、俺を助けるためだと思って、使って。ね?」
風邪を引かせた男って…面白い人。
「すいません、お言葉に甘えて使わせていただきます。ありがとうございます」
「気を付けて帰ってください。雨脚が強くなってきたみたいだから」
「はい、ありがとうございます」
それでは、と軽く会釈した相川先生は去っていった。
背筋がピンッと伸びて、凛々しく、スーツのジャケットを羽織った後姿はとても男らしい。
見えなくなるまで、先生の後ろ姿を見送った後、再び現実に戻された錯覚を起こしため息を吐いた。
窓の外は灰色。
「私も早く帰ろ」
先生に貸してもらった傘を握りしめて、今度こそ大学を後にした。
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