六波羅の嘆き

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 仲時が三種の神器を持ち、連れていくのは、光厳天皇と後伏見、花園両上皇、皇太子康仁親王だ。 「主上、お元気で」 「主上、気をしっかりお持ちになって」  女御や女房たちが気遣いさよならを言いかわす中、 「わたくしは主上たちについていくわ」  ひとり気を吐くのは、後伏見上皇の女御のひとりで光厳天皇の母、西園寺寧子だった。 「気をしっかり持つのですよ」  土壇場で強いのは母親だった。  こうして六波羅を出発した一行だったが、  間もなく、先陣を務めていた南方の時益が、敵の放った矢に射抜かれて胸を苦しがった。 「時益殿、――時益殿が」 「行ってくれ。今上を……頼む。頼むぞ」
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