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「さあ、誰が行く?」
赤松円心(あかまつ・えんしん)の声で、子供たちがざわめく。
差し出すのは綸旨。
天皇の意を体して蔵人や側近が発行する奉書形式の文書だ。
後醍醐天皇はよくそれを使って、各地の悪党たちに反撃を促していた。
「俺は行きたくない。惣領が行ってなにかあったら赤松家はどうなる」
「僕も辞退するよ。僕はそれほど武術に慣れていないし……足を引っ張ったら終わりだからね」
「俺、俺! 俺が行きたい」
「ばあか、お前はお袋の乳でもしゃぶってろ。俺は大塔宮(おうとうのみや)の一の臣下だから、俺が適任なはずだ」
四人兄弟の中、頭をつるりとした則祐(そくゆう)が言う。
「ずるい兄貴―」
「そうだな、則祐で決まりだ」
円心は息子たちの声を聞きにしゃあと笑った。
「足利治部大輔高氏(あしかが・じぶだいふ・たかうじ)に話をつけてくるのはお前だ、則裕」
そう言って、綸旨を三男坊に渡した。
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