六波羅の嘆き

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 そう言って、こときれた。あまりにもむごい最期であった。 「時益殿」  嗚咽をかみ殺していると、尊い方にも矢があたったのだと聞く。 「探題殿、帝も……」  糟谷が言うのに耳を貸す。  同行していた光厳天皇にも流れ矢が当たって、左足を負傷していた。 「主上、足を……」 「大事ない。縛ればいい」  世が世なら、大事に大事にされてもいいはずの方々なのに……。  はらはらと涙を流しながら、御母君寧子は布で息子の足を縛った。  しかし、その後、彼らが行きついた宿で仲時らが関東に落ちて行くという噂が流れていた。  近江国にある番場宿という宿屋で健やかな眠りに落ちていた皆だが、そして、佐々木道誉――後醍醐天皇の綸旨に呼応した武将――が現れた。  時仲は絶望の色を目に宿した。 「死んで責任を取るとよろしいでしょう」  優雅に扇子を口にあて、この佐々木判官は言う。
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