北条のゆくすえ

4/10
前へ
/42ページ
次へ
「お母しゃま、炎が、炎が見えるの」 「大丈夫ですからね、千寿王。お母さまが一緒よ」  足利荘で、登子は、熱に浮かされる四歳児の世話を一心にしていた。  鎌倉炎上のとき、奉じられていったその悲惨な思い出が千寿王を苦しめているのだ。 ――もうじきあなたは捨てられる。北条氏が滅亡するのもあと少しだ。そうなっては、殿が北条の姫を娶っているのは体裁が悪いことになる。 (わかっているわよ、そんなこと。私と千寿王がいなくなればいいんでしょう?)  手紙で高氏にうっぷんをぶつけるも、 「私の奥さんはそなただけだから」  と書かれる始末。  いつもだったら嬉しいのかもしれないが、このときばかりは腹が立った。 「じゃあ、師直に言いなさいよ、登子を北の方と認めると」 「それはどちらも選べない。ごめんね」 「師直を解雇してよ。さもなければ、わたくしが出ていくわ」  今度の手紙には、返事がなかった。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加