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「お母しゃま、炎が、炎が見えるの」
「大丈夫ですからね、千寿王。お母さまが一緒よ」
足利荘で、登子は、熱に浮かされる四歳児の世話を一心にしていた。
鎌倉炎上のとき、奉じられていったその悲惨な思い出が千寿王を苦しめているのだ。
――もうじきあなたは捨てられる。北条氏が滅亡するのもあと少しだ。そうなっては、殿が北条の姫を娶っているのは体裁が悪いことになる。
(わかっているわよ、そんなこと。私と千寿王がいなくなればいいんでしょう?)
手紙で高氏にうっぷんをぶつけるも、
「私の奥さんはそなただけだから」
と書かれる始末。
いつもだったら嬉しいのかもしれないが、このときばかりは腹が立った。
「じゃあ、師直に言いなさいよ、登子を北の方と認めると」
「それはどちらも選べない。ごめんね」
「師直を解雇してよ。さもなければ、わたくしが出ていくわ」
今度の手紙には、返事がなかった。
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