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「頼子と危ない橋を渡ったらしいですね。君がいなくなったら、私は生きていけないよ」
「東勝寺の新熊野は……?」
「あれは私の子じゃないんだ。浮かれ女の産んだ子。どこの種だかわかりはしない。弟と師直は私の子だと言い張っているけれど。だから、絶対に私は庶子と認めない。千寿王だけが私の子だ」
それが嘘だと知っていた。
でなければ、どうして周囲が殿の落とし胤だと騒ごうか。
武士の棟梁の正室として、側女の産んだ子も受け入れなければいけなかった。
でも嫌だった。
自分以外の女を抱いたあとの子なんて、死んでも受け入れるのは嫌だった。
「殿……!」
今は優しい言葉に慰められていたかった。
この優しい言葉に、抱き締めかえした。
このときの高氏の選択が動乱に結び付くなんて、誰が知ろうか。
そして。
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