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八幡太郎義家(はちまんたろうよしいえ)の子孫として、源氏の血を引く足利氏の家にはこういう物騒な置き文があった。
「われ、必ず当家七代の子孫に生まれ変わって、天下の権を取らん」
その先祖のちょうど七代目にあたるのが高氏の祖父家時(いえとき)であり、我はできなかったが、三代のうちに天下を取らん、と言って、覚悟の切腹をした。
足利高氏が三代目。
心配でたまらないのは赤橋登子(あかはし・さだこ)。
高氏の正室であり、幕府の執権赤橋守時(あかはし・もりとき)の妹である。
「殿は、そんなことなさらないわよね? お兄様を潰したりしたら承知しないわよ?」
「うーん、そうに決まっているじゃないか。伯耆にいる天皇には引退してもらうよ。これからは持明院統の御代だ」
誰からも好かれる人好きのする笑顔でそう言って齢四歳になる二人の間の息子千寿王(せんじゅおう)を抱き締めた。
「おお、千寿王。お父様だよ」
そう言って抱きしめる高氏は父の顔をしていた。
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