尊氏の憂鬱

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「私が鎌倉幕府を倒し、幕府を作る。新しい天皇、後醍醐天皇のもとで」  しかし、喜色あふれて自分を受け入れてくれた北条仲時や、一緒に戦おうと言ってくれた名越高家を裏切ることになる。  どちらを選ぶのがいいのだろう。  眠れぬ夜で、酒でも飲みなおそうかと台盤所へ歩いていった。  この屋敷の女房に言いつけてもいいが、女たちの迷惑になる。  そのときだ。 「いいだろ? 俺、男も行ける口だから」 「ちょっ、やめろよ」 (男同士の痴話げんかか)  冷めた顔で思う。  迫って言うのは、直義の家来の、淵辺義博(ふちべ・よしひろ)……だったか。  すぱあんとふすまを開けると、二人はぎょっとして離れた。 「やめなさい。己の欲望のはけ口に無理に迫るのはよくない」
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