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そう言い寄ると、若者の黒の衣の中に手を入れている大柄な男はばっと手を離した。
「と、殿……! これはとんだご無礼を」
淵辺は恥じらって、もごもごと口の中で言い逃げた。
残るは、夜の闇にひっそり立っている男だけ。見れば僧形である。
「君は逃げないの?」
「なにもやましいことはないのに?」
くすりと笑うので、高氏は頭のどこかでちり……と、怒りがわいた。
「そこの坊主。君は華奢で女っぽい顔をしているのだから、早く部屋へ戻りなさい」
つっけんどんに言うも、二十歳くらいの青年は、ひかない。
「いいや、今俺のお仕事はあんたと話すことだから。足利治部大輔高氏さん」
「……」
高氏は、とりあえず、微笑んでみた。
「どこの誰が君を送りこんだのか、聞いてみてもいいかな?」
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