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プロローグ1
この沼は『底無し』との言い伝えがあり、緑青色に濁った水面にはさざ波ひとつ無く、まるで全ての音を吸い込んでしまう魔力があるかのように感じられた。
その沼に、一人の若い女性がやってきた。
彼女は美しく、理知的な容貌の持ち主だった。
沼の周囲をゆっくり歩きながら、目に付いた生物を写真に収めたり、サンプルを採取したりしていた。
彼女がふと沼の中央付近にカメラのファインダーを向けると、何か白いモノが浮いているのを見つけた。
それはまるで突然『そこ』に現れたようだった。
彼女はカメラをズームした。小さな電子音が鳴ると、ぼやけていた像は、AF《オートフォーカス》により瞬時に鮮明な画像に切り替わった。
白いモノの端には無数の金色の線維が生えており、水面に円形に広がっていた。
それは金の綿毛を蓄えた、巨大なたんぽぽの種子ように見えた。
緑の草原をバックに、懸命に綿毛を伸ばし、少しでも遠くを、少しでも住み易き大地を目指して彷徨っているようだ。しかし彼女には、たんぽぽの種子ではない、別の恐ろしいモノが頭に浮かんだ。
その時、沼中のタンポポがピクリと動いた。
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