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「まさか!大変!」
それはうつ伏せに浮いている金髪の人間だった。
彼女は荷物を投げ捨てると、沼の中に駆け込んでいった。沼は水というよりは泥に近く、重い泥をかき分けながら、白い人型に急いで向かった。
「大丈夫ですか!」
そして彼女は胸まで泥に埋まりながら、うつ伏せの人間を抱えると、その身体を表に返した。
「ひぃ!」
驚愕に顔を歪めた彼女は、腕の中の人型を思わず突き飛ばすと、バランスを崩して沼の中に倒れてしまった。泥の中に沈んだ彼女の口や鼻から、沼のどろりとした青臭い液体が入り込んできた。彼女は四肢をバタつかせながら懸命に立ち上がると、むせこみながらも岸にむかって必死に移動した。底無し沼というだけあり、歩みを進めるたびに泥が足を捉え、彼女を沼の底に飲み込もうとするかのようだった。靴は脱げ、何度も倒れ、その度に泥を飲み込んだ。
這々の体で岸に辿り着いた彼女は、全身が泥まみれになっていた。そして嘔吐した。彼女の端正な顔が苦痛に歪んだ。肩で息をしながら岸に座り込むと、涙を拭いながら恐る恐る沼の死体に眼を向けた。
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