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しまった、と思った。しかし、あの大嫌いな目のかゆみと鼻のムズムズは、俺の気持ちなどお構いもせずに襲ってくる。
「えっ梶原くん、ごめん、花粉症だった??」
「ちが……ハクシュッ」
否定しようとしたが、くしゃみが止まらない。佐藤が窓を慌てて閉じる。一瞬で激しい春の風の音は静かになり、ぱたぱたと走り寄ってくる佐藤の足音だけが響いた。
「わああああ、ごめんね!」
佐藤は、わたわたと肩を叩いてくる。これはよくない、もし花粉症だと認めるなら、俺はマスクをつけなくてはならない。それは恥ずかしくて嫌だし、それを佐藤に知られるのは一番嫌だった。
「あ、そうだ薬。私の薬飲んで!」
「いらねえよ」
「でも」
「いらねえって!」
思わず出した大声に、佐藤がビクッと肩を震わせた。怯えたようにこちらを見る彼女の視線にイライラする。そんな彼女にイライラしている自分に一番イライラしている。
「いいから」
一度深呼吸をして、冷静になってからもう一度否定の言葉を繰り返した。
「う、うん」
くしゃみは止まったが、目が痒い。しかし、絶対にこすらないぞと目を閉じる。その様子を佐藤に見られないように、彼女の方を見ないようにして立ちあがる。
「昼休み終わるから教室帰るぞ」
「……そうだね」
背後のしゅんとした彼女の声に、気がつかないふりで教室に向かう。今日は……最近は、本当に人とうまくいかない。それもこれも、すべて春のせいなのだ。
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