春の病

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 春になり、なんだか毎日イライラしている。  甘やかされるようなぬるい温度、めまいがするような花の香り、感じるたびになんだかイライラする。 卒業に、入学。春は、まるで自分は人生において特別な存在です、という顔をしてやってくる。演出される別れ、出会い、泣く女子……。感動を感じないと弾劾されるあの雰囲気、全部この特別でもなんでもないのに特別面する春のせいだ。 「……クシュッ」  それになにより、この症状。まとわりつく独特なマスクの匂い、呼気で湿る口元、だるい体。本当に嫌になる。花の粉なんて放っておけばいいのに、俺の体は律儀に反応してくれる。マスクをつけた顔が恥ずかしくて、自転車をこぐ顔はあまり前に向けられない。 学校の校門が近づくと、桜並木に入る。視界を奪うような花びらに顔をしかめると、後ろから大声が追いかけてきた。 「梶原!」 何ともないふりをしてマスクを顔から引きはがす。乱雑にブレザーのポケットにマスクを突っ込むと、ぬるい風が口から体内に入ってきた。 「お前、マスクはずして大丈夫か?」 「大丈夫に決まってるだろ」 「花粉症なんだろ」 「……ちがう」 「なんでそんな頑なに認めないのかなあ」  俺の嘘にも適当に相槌を打って、木村は自転車を横に並走させてきた。ワックスがつけられていない部分の髪がふわふわと風に揺れている。小学生のときは一緒に走り回ったこいつも、中学に入った途端に垢抜けたのかおしゃれをするようになった。はじめは馬鹿にしていたが、中学入学から1年経った最近はこなれてとても様になっている。そんなこいつを馬鹿にしている自分が馬鹿みたいで、いまさら自分もイメチェンを計るのも恥ずかしく、最近はこいつの顔を見るのもイライラする。そんなことで数年来の友人に対してイライラしている自分にもイライラしている。 「そういえば、姉ちゃんが誕生日にヘアカラーくれたんだけど、俺もそろそろ髪の毛染めるかなあ」 「髪の毛染めるのは校則違反だろ」 「お前はそういうところ気にするよなあ」 
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