春の病

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ペラペラと話しかけてくる木村に、なるべく不機嫌にならないように話を合わせていると、やっと校門にたどり着いた。自転車を駐輪場にとめて、教室までの道を歩き始めると、マスクを外したのがいけなかったのか、鼻がムズムズしてくる。 「クシュッ」 「ほら、マスク外すからだぞ。花粉症なんだから」 「……!」  さきほどの嘘を攻められたのかと思った。木村はいつもの軽い口調で、そんなつもりはないとわかっている。わかっているのだが、思わず口調が強くなった。 「うるさい、そんなんじゃねえ」 「……梶原さあ」  人の心の機微に、木村は聡いのである。だからこそ、ここ最近イライラを隠すのに精一杯だった。それでも、関係がうまくいかないことが多い。 「最近、なんかずっと不機嫌じゃね?」 「……」  もう俺に話しかけないでくれ、顔を見せないでくれと言うことはできる。そうすれば、こいつの顔を見てイライラすることもなくなる。俺はそうしたいんだろうか? 「春だし眠いだけだ」 「ふーん」  俺のごまかしの答えはきちんとした回答にはなっていなかったが、木村はなんでもなさそうに相槌をうった。そうして、今日もイライラを抱えながらもこいつとは友達でいられる。木村は、さっきまでの不信感を全く出さず明るくまたぺらぺらと話し始めた。 嘘をついてしまったという気持ちからか、俺の中のイライラは小さくなり、前のように適当に木村と話せた。ふたり並んで教室に入り、前後の席に座る。木村の後ろの席は、学校にいる間中彼の髪を見続けなくてはならなくなり、それもこの春のイラつきの要因の一つだった。梶原、木村と名前の順が近く、新学期一番初めの席は名前の順で決まる。ひいてはすべて春のせいである。 2年生になり、同じクラス席が前後になった時は、 「やったな!」 と喜ぶ木村と一緒にまだ少しは喜べたはずなのに。新学期が始まり2週間が経ち、桜が咲き始めたこの頃、この席は木村と距離を置きたい俺には苦痛以外のなにものでもなかった。
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