春の病

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佐藤、坂本と、朝からこのクラスに対して立て続けに感じていたイライラが最高潮に達した。この春の雰囲気に当てられた教室が気に食わない。弱者の気持ちを無視して好きなようにしていいと思っている強者も、強者になすがままになっている弱者もどちらも気に食わないのだ。新しい環境、新しいグループを形成・結束するための機能としての弱者、生け贄。そう、すべて春のせいだ! 「静かにしろよ!」  思わず出した大声に、心がスッと穏やかになったのを感じた。ただその心地よさは一瞬だけで、シンと静まり返った教室に心臓が高速で血を流し出したのがわかった。恥ずかしさで顔に血が集まる。  数秒沈黙が支配した教室に、慌てたような坂本の声で朝の会が訪れた。その朝の会中ずっとクラスメイトが全員こちらを見ているようだったが、うつむくのも負けたようで、顔をまっすぐ前にしか向けられなかった。困ったような表情で、前の席の木村がちらりとこちらを振り返ったのだけが見えて、また少し彼にイライラした。 「えっと、国語委員は佐藤さんですよね。課題、明日の国語の時間までに集めておいてくださいね」  そんなアナウンスと今日の予定、広瀬先生が出張であることだけを早口で告げて、坂本はそそくさと教室を出て行く。そそくさと出て行きたいのはこちらのほうだというのに、朝の会の束縛から逃れてしまった俺は、イライラしながら一限目の用意をしはじめる。俺の一挙一動にクラスメイトの視線がチクチク刺さるような気がして、どんな動作も気が気でならなかった。 「あのさ」
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