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昼休みになり、俺は母親が作った弁当をもって、ぷらぷらと廊下を歩いていた。朝のことで気まずく、「俺、今日は部活の奴らと食べるわ」と目を合わさず言った木村の言葉に無言で頷いたのだった。木村は、大体週の半分は他クラスに出かけて行って同じサッカー部の奴らと、残りの半分は席を移動せずに俺と昼食を食べていた。しかし、これからしばらくは、もしくは今後一切彼と昼食を食べることもなくなるのかと思うと、今はイライラよりも胸の空洞が気になった。
胸の痛みを抱えてはいたが、昼食の場所は迷わなかった。週の半分は行っているところだ。教室棟から離れ、なぜか新設された技術室の横に、教室からも職員室からも遠すぎるあまりに特に使われていない謎のスペースがあった。おそらく、デッドスペースに適当なベンチをふたつ置いて、あくまでも休憩スペースだと言い張りたいのだと思われる。日光を取り入れるための大きな窓から、技術の授業で使う外の作業場に植えられた桜が満開なのが見えた。
日光で明るいその空間に、見慣れた姿がある。ぼさぼさの頭、分厚いゴーグルメガネ。顔を覆うマスクはとりはずして、最近は毎日隠された口でもぐもぐと弁当を食べているようだ。
「あ、梶原くん」
近づく俺に気付いたのか、のびのびとした声が跳ねた。振り返った佐藤は、箸をくわえたままぱっと顔を輝かせる。
「今日は火曜日なのにこっちなんだね、木村くんは?」
木村、の音にズキンと痛む胸を無視して、できるだけ平常心を装って答える。
「あいつは今日は部活の奴らと食べるらしい」
「そっかー、じゃあそちらどうぞ」
向かい合うベンチを手のひらで示して、佐藤が笑った。
「どーも」
俺も佐藤も、去年から同じクラスで、同じようにクラスで浮いていた。木村が部活の仲間と昼食をとるようになって、静かに昼休みを過ごせる場所を探して学校を彷徨ううちに、ここで佐藤と出会ったのだった。
「わたしとご飯食べてくれてありがとねえ」
のほほんと笑う佐藤のその言葉の裏にはきっと「クラスで笑い者にされている自分と」という、「のほほん」とは程遠いニュアンスが含まれている。そんな佐藤の様子を見るたびに、重大な問題を無視して逃避しているようでイライラして仕方ないのであった。
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