8.贅沢なペイン

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正直に言うと、 暫く芳がいなくてホッとしていた。 だって、光正とのことを 何と報告すればいいか分からなくて。 翔と付き合っていると言っておきながら、 いつの間にか光正とだなんて。 絶対、呆れられるに決まっている。 この時はまだ、 光正との関係をオープンにするつもりで、 私はその機会を窺っていたのだが。 …それは祐奈の言葉で一転する。 「なんか聞いた話に寄ると、 経理部の佐久間さんが 番匠さんを狙ってるんだって。 今まではホラ、 私がベッタリくっついてたけど その私が健介と付き合い出したと知って、 それで『じゃあ自分が』と思ったみたい」 サアッと血の気が引いた。 佐久間さんは1つ年上の先輩で、 数々の逸話を持つ女性だ。 とにかく陰湿なイジメをするのだと。 お気に入りの男性社員を常に数名保有し、 その男性が社内恋愛でもしようものなら、 相手の女性を徹底的に攻撃する。 出張費の仮払いをギリギリまで 処理してくれなかったり。 適当な理由をつけて、 領収書を受け取ってくれなかったり。 この人の難儀なところは、 自己評価が低いのに気が強いところで。 相手の女性が美人だと、 全てのことは大抵許されるのだそうだ。 祐奈が無事だったのもそのお陰だろう。 うーん。 私、きっとイジメられるなあ…。 いや、私の場合は 自己評価が低いのでは無い。 自分のことを客観的に見れるだけだ。 残念ながら、小心者の私は、 すぐ光正に相談し、 私達の交際は当分秘密にしよう ということになった。
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