序章。再会と終わり

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 耳に入ってくるのは、コンクリートの地面を叩く雨の音。それ以外の音は、一切、耳に届いてこない。濡れた道路を走る車の音くらいは聞こえても良さそうなものだが、不思議なことにそれも無く、加えて誰の気配も感じなかった。  確かに今日は休日である。しかし、ここは高校の敷地内で、時刻も夕方というにはまだ早い。だから、生徒や先生の一人くらいはいてもよいはずだ。  けど。やはり誰の気配も感じられず、周囲を包むのは、未だ降り止む様子を見せないこの初夏の雨だけで……そんな中、俺は一人、玄関前の屋根の下で、手の中にある一冊の本のページをめくっていた。  ぽたぽた。ぱらぱら。強いのか強くないのか、よくわからない雨脚の強さ。  ただ、無理にそちらへ飛び出さなければいけない理由を、今はまだ持ち合わせていない。  近くの柱に身体を預けながら、ただ静かに、一ページずつ、紙をめくり、物語を進める。  そうして黙って本を読んでいると、ふと、自分の背後、校舎の中から、パタパタという音が聞こえてきた。  
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